2007年12月 of FUTURE WALKER


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2007-12

グッド・シェパード

最近、いわゆる“映画”を久しく観ていなかった。
ここでいう“映画”とは、映画館にかけても恥ずかしくない映画のことである。
つまりは、「ぜひ映画館で観たい!」と思えるような映画のことである。
皆さんも久しく映画館に行っていない人がほとんどだと思う。
そんな中で久しぶりに“映画”に出会った。もう映画館では終わってしまったが、
『グッド・シェパード』という映画である。

名優ロバート・デ・ニーロの監督第2作目であるが、第1作目から実に13年ぶりの作品である。
アメリカの諜報機関CIAがどのように設立され、どのように国内外で活動し、
どのようにアメリカ政治に深く関わっていったのか、
CIAの前身OSS(米軍戦略諜報局)の時から身を投じた一人のCIA職員とその家族の人生を通して、
リアルにアメリカの暗部が描かれている。

「いくつ愛を失くせば、この国を守れるのか」というキャッチのとおり、
主人公が国家を守るという大義のもとに、自らの人生と人の命、
そして家族までも犠牲にしていくのだが、
国家を守るとは何なのか、そもそも国家って何だという問いを静かに投げかけてくる。

そして、実際に起こった史実の裏側を、元CIA職員の証言に基づき、
限りなくリアルなフィクションに仕立てているのだが、人間という複雑な存在が実に等身大に描かれ、
観る者に恐ろしいほど身近に迫ってくる。
決して“別世界”の話ではなく、我々が住む同じ社会の話なのだ。
主人公も決して特殊な人間ではなく、
ただ単に積極性を持って自分の人生を選ばなかった結果なのである。
それゆえに、いつの間にか表情を失い、寡黙になり、“人”として生きられなくなっていくのである。

 “人間”を描く基本を失い右傾化するハリウッドに対し、
デ・ニーロは、真正面からこの映画で挑んだように思える。
そのような信念を持った映画に、そうそうたる俳優陣が出演しているのも実に頼もしい。
そこにデ・ニーロならではの、演技を知り尽くした演出が加わり、
奥行きのある落ち着いた世界観で骨太なテーマをしっかりと観客に伝えている。

 “グッド・シェパード”とは、新約聖書にも出てくる“良き羊飼い”の意味であるが、
この映画では、羊飼いはCIA、羊は国民、羊のオーナーは国家であると隠喩している。
では、羊飼いは日本政府、羊は日本国民、羊のオーナーはアメリカ合衆国政府となっているのが、
現在の日本ではなかろうか。

written by 中村未来歩