2009年11月 of FUTURE WALKER


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2009-11

沈まぬ太陽

先日公開された映画『沈まぬ太陽』を観た。
山崎豊子原作小説の映画化である。
原作は、アフリカ編、御巣鷹山編、会長室編という3部構成で、
全五冊にも上る大長編小説であり、
この日本の本当の構造を如実に表している内容のものだ。

私も遅ればせながら1年ほど前にこの原作を読んだのだが、
権力と金ですべてが動き、人命までもがその下に位置する
この日本の具体的な事実に、呆然としたというか、
ショックのあまり、感想を言葉にできなかった。
特に、御巣鷹山編で描かれたジャンボ機墜落事故は、
1985年に起こった日本航空123便墜落事故を元に詳細に描かれ、
ほとんど人災で起こった事故の凄惨たる残酷さが、
今でも頭に焼き付いている。号泣せずには読み進められなかった。

そんな原作の映画化であるがゆえに、今の日本映画では厳しいだろと思ったが、
インターミッション(途中休憩)まで入れての長編大作ということで、
どんなものかと確認のために観に行ってみた。

努力賞。端的に言えばこのような感想だろうか。
作り手が原作に感銘を受けて、必ず映画化したいという思いから作った
という感じの熱い意志は伝わってきたと思う。
が、原作を読んでいない人には果たしてその神髄は伝わっただろうか。
私は、原作も読んでいるし、御巣鷹山にも行ったことがあるので、
いろいろなことを思い出し、怒りと涙を抑えられないところもあったが、
初めてこの話に触れる人は、そこまでの思いにはなるのだろうか。

渡辺謙やその他の出演者たちはがんばっていたが、
首相(中曽根がモデル)が加藤剛だったり、
どうもキャスティングが微妙なところは残っていたし、
重要な登場人物が統合されてしまって一人になっていたりして、
(それが短時間で語る上で効果的ならいいのだが)
その人物像がいまいちよくわからない感じになってしまっていたりした。

また、これは日本映画全体にもいえることなのだが、語り口があまりうまくない。
過去に現在にと縦横に話が飛ぶのだが、それがあまりうまくいっていないように思う。
このように重厚な内容のものは、もっと時系列に沿って積み重ねて描いていく方が、
より観客にその話の厚みが伝わるのではないかとも思う。
おそらく、飽きさせないようにそのような構成にしたのだろうとは思うが。

そして、映画であるがゆえに表現しきれない部分も多々ある。
文章であるからこそ、かなり残酷な真実も文字で詳細に伝えることもできるが、
映画では倫理上の限界がある。それそのものを映像で見せるわけにはいかない。
しかしこの物語は、凄惨な事実を伝えなければその神髄に到達することはできない。
こういった表現の種類的制約から、この原作を映画で昇華させることは困難なのである。

だが、より多くの人にこの内容を伝えるためには、映画化に効果があることは確かである。
ゆえに、映画としての完成度に不満はあるにしても、
この映画を観て、原作を読みたいと思ってくれれば、今回の映画化は御の字なのだろうかとも思う。

この映画を入り口にして原作を読み、御巣鷹山慰霊登山をしてくれれば、この映画の価値が出るだろう。

とにかく、製作には相当の苦労があったようで、(内容も内容なので、いろいろ横やりも入った)
この映画の製作関連の皆様には、お疲れ様と言いたい。

written by 中村未来歩